個人的に長年、IWCのマーク15白文字盤ver.を日常使用している。マークシリーズはご存じの方も多いと思うが、IWCの主要モデルの中でも長い歴史を誇る定番品であり、個人的にはIWCを象徴するシリーズだとおもっている。その中でもこのマーク15白文字盤は突然変異臭がするモデルなので、歴史を整理しながら、長年思ってきたことをつらつら書いてみる。※ちょっと前段整理が長くなってしまったので、長いと思った方は最後の章まで読み飛ばしてほしい

そもそもIWCとは

IWC(International Watch Company)は、1868年にアメリカ人技術者フローレンティン・アリオスト・ジョーンズによってスイスのシャフハウゼンで創業された高級時計メーカーです。アメリカ人が創業メンバーの一人ということもあって、スイスのブランドですが英語表記です。

…このブランド名、たまらなくないですか?日本語に翻訳すると「国際時計株式会社」ですよ。町工場の匂いがプンプンしますw

スイスメーカーとは言いつつ、スイス北部のシャフハウゼンに位置しているんですが、多くのスイス時計ブランドがジュラ地方(ラ・ショー=ド=フォンやル・ロックルなど)に本拠を置く中で、IWCはこの伝統的な時計製造地とは異なるドイツ寄りの立地にあることが、特徴を際立たせているように思えます。

ドイツの時計ブランドというと、代表的なもののの一つのNOMOSがあります。興味ない方には「駅や公園の時計」にしか見えないあのNOMOS。IWCもそういった、ドイツ時計(というかバウハウス)のDNAを感じさせます。

リシュモングループ入りしたことで、少しだけ華美になった

そんなIWCは長年にわたって独立した資本体制で運営されていましたが、2000年にリシュモングループ(Compagnie Financière Richemont SA)に加わりました。

LOUIS VUITTON」を代表とするLVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン、「GUCCI」や「Saint Laurent」などを抱えるケリングとあわせて、ファッション業界の世界3大コングロマリットとされています。

リシュモングループには、カルティエ、ジャガー・ルクルト、パネライ、ヴァシュロン・コンスタンタン、ピアジェなどの時計ブランド、時計に強みを持つジュエラーが所属しており、おそらくスウォッチグループと双璧(やや弱いが)をなす時計グループです。

IWCのモデルは「質実剛健」と評されることが多いですが、個人的にはやはり、リシュモングループ入りしたことで、だいぶ華美になったように思えます。そのあたりをモデル変遷を交えながら書いていきます。

IWCを代表するマークシリーズ

マークシリーズは、IWCのパイロットウォッチの中核となるラインで、もともとは英国軍向けに開発された軍用時計にルーツがあります。軍用時計としての堅牢さと精度を保ちつつ、民間市場向けには洗練されたデザインや機能が加えられており、IWCの伝統と革新の象徴として、多くの時計愛好家に支持されています。

パイロットウォットというと、BREITLINGやSinn、ブレゲ等がおもいうかぶやつです。

以下、まずは各マークシリーズの特徴を整理しました。

【マーク10】

これは正式なモデル名ではなく、第二次世界大戦中に英国陸軍に12のメーカーから納入された「ダーティダース」の一つという扱いになっています。いつか欲しい。(値段上がったな…)

【マーク11】

  • 生産年数:約1948年~1981年頃
  • ケースサイズ:約36mm(軍用支給品として頑丈な設計)
  • 前モデルとの違い:マーク9・10と異なり、英国空軍向け正式採用モデル。耐磁性・視認性を徹底
  • キャリパー:手巻きムーブメント「Cal.89」搭載(耐磁・耐震性能が特徴)

【マーク12(マークXII)】

  • 生産年数:1993年~1999年
  • ケースサイズ:36mm
  • 前モデルとの違い:マーク11の伝統を受け継ぎながら、市販向けに自動巻き・日付表示・サファイア風防を追加
  • キャリパー:Cal.884(ジャガー・ルクルト製ベース、パワーリザーブ約45時間)

【マーク15(マークXV)】

  • 生産年数:1999年~2006年
  • ケースサイズ:38mm
  • 前モデルとの違い:マーク12よりケース径が拡大、ムーブメントがETA2892A2ベースのCal.37524へ変更し、耐衝撃・耐磁性を強化
  • キャリパー:Cal.37524(ETA製ベース、パワーリザーブ約42時間)

【マーク16(マークXVI)】

  • 生産年数:2006年~2012年
  • ケースサイズ:39mm
  • 前モデルとの違い:ケース径拡大とともに、文字盤デザイン・針(ローザンジュ針採用)やカレンダー表示が刷新された
  • キャリパー:Cal.30110(ETA製ベース、パワーリザーブ約42時間)

【マーク17(マークXVII)】

  • 生産年数:2012年~2016年
  • ケースサイズ:41mm
  • 前モデルとの違い:マーク16よりさらに大きくなり、コックピットを彷彿させる独自の日付インジケーター(3日間表示)を搭載
  • キャリパー:Cal.30110(ETA製、パワーリザーブ約42時間)

【マーク18(マークXVIII)】

  • 生産年数:2016年~2022年
  • ケースサイズ:40mm
  • 前モデルとの違い:マーク17より1mmダウンサイジングし、インデックス配置等の微調整でシンプルさを追求。民生向けバリエーションが豊富
  • キャリパー:初期はCal.30110(ETA製)、後期はCal.35111(セリタ製へ切替)、パワーリザーブ約42時間

【マーク20(マークXX)】

  • 生産年数:2022年~現在
  • ケースサイズ:40mm
  • 前モデルとの違い:マーク18のデザインを踏襲しつつ、内蔵ムーブメントを自社製に変更。パワーリザーブが約120時間に大幅延長、防水性能も10気圧へ向上
  • キャリパー:Cal.32111(IWC自社製、パワーリザーブ約120時間)

ここから本題である、マーク15(白文字盤)に迫っていきます

個人的に思う、IWC マーク15とは?|Mark XVの基本情報と魅力

デザインがオリジンを尊重している

マーク10を除くと、マークシリーズのオリジンはマーク11です。マーク15はケースサイズが少しだけ大きくなりつつも、針の形状は11を踏襲しています。

ケースサイズ

先程書いた通り、マーク11から2mm大きくなった38mm。現在のメンズ時計は40mmオーバーが主流で「スモール化がトレンド」と言いつつもメインストリームにはなりきれない印象がありますが、普通体型の日本人に似合うのはこのくらいのサイズまでだと思います。(本心では36mmくらいがベスト)

ETAムーブメント

機械式時計の分野において、ETAやセリタのムーブは地位が低い扱いですが、個人的には断然ETA派です。何と言っても、そのへんの時計屋さんでOHできる。これは圧倒的に維持費節約が可能ですし、将来パーツがなくなる心配もない。メーカーに出さないということは、おサカナ竜頭も守れる。

ちなみにIWAはETAを採用するにあたり、ETA2892を徹底的に鍛えました。それがETA2892A2であり、高い精度を獲得したことでその後のETA全盛時代につながっています。

耐磁性

マークシリーズは航空機という特殊な環境でも機能するため、約40,000 A/m(アンペア毎メートル)の磁界に対する耐性を備えています。この耐磁性能は、ムーブメントを磁気から保護するために、軟鉄製のインナーケースが採用されていることによるものです。

当時は航空機という特殊な環境でいきるものでしたが、PCやスマホの近くに置けるというのは、現代社会ではなくてはならない機能だと思います。

マーク15の白

IWCマーク15は1999年に登場し、2006年にマーク16へと移行するまでのモデルですが、その中でも特に白文字盤バージョンは非常に希少なバリエーションとして知られています。

【生産時期・本数】

・多くの専門家の情報によると、白文字盤モデルはマーク15初期(おおよそ1999年~2000年頃)に限定的にリリースされたとされています。
・生産本数は、一般的には約500本前後と推定されており、希少性からコレクターの間で特に高い人気を誇っています。

【特徴】

・ダイアル:通常の黒文字盤とは異なり、白文字盤に黒のアラビア数字が配置され、明るく爽やかな印象を与えます。また、各インデックスが印刷からメタル製にかわっています
・デザイン:伝統的な軍用時計のDNAを保持しながら、白文字盤ならではの洗練された印象が付加され、カジュアルにもフォーマルにも合わせやすいバランスの良いモデルとなっています。

※なお、白文字盤モデルの生産本数やリリース時期については、資料や専門家の間で若干の見解の相違があるため、あくまで一般的な情報としてご参考ください。

個人的に優れていると思う点

これはマーク15に限らないですが、白文字盤は黒よりもカバーする範囲が広いです。

NATOベルトをつけるなどで思いっきりカジュアルに振ることもできますし、一方でレザーベルトをつけると、黒文字盤よりも一段階フォーマルな印象になります。

そして、あるいみ「チープカシオ」のような雰囲気すらあるので、たとえばロレックス等が嫌味になってしまうシーンでも、このモデルなら浮かずにすみます。

というわけで、私はスポーツやアクティビティ時にGショックをしているほかは、ほぼ1年中マーク15をつけており、他にいくつか持っていた時計はすべて売却してしまいました。

白文字盤の謎

高級時計メーカーのなかでも質実剛健な文化を持つIWCにとって、パイロットウォッチの白文字盤という存在は異質です。

なぜなら、太陽直下の環境で文字盤が反射して見えない、もしくは反射で敵に見つからないために、マットな黒である必要があるからです。近年でこそ様々な色の文字盤が採用されていますが、当時としてはめちゃくちゃ異例でした。

それではなぜ、この突然変異種が生まれたのかというと、私はリシュモングループ入りにともなうニーズ調査の意味合いが含まれていたのではないかと思います。グループ入りに先立つ1999年にリリースされており、IWCの他のモデルも2001−2002年頃に大きな新型はありません。ということは、リシュモンとしては既存モデルのバリエーションモデルとして、「ちょっと華美にしたらどうなるか」を確かめたかったはず。

ただそれが結果的に受け入れられたとは言えないため、別の方向を模索して今に至っている。個人的にはそういう妄想をしています。